推理一覧
バッカスメンバーの普段の生活を材料にしたフィクションです。
• 登場人物がバッカスメンバーであるとは、必ずしも明確には述べていないつもりです。
3 猫を愛でる女
その女(ひと)は、丸い唇をしていた。
カールのかかった黒髪は口先にも延びて、赤い口紅を引き立たせていた。小柄な身体に巻き付いたスカーフの端は胸元に隠れ、そして私の視線を遮っていた。
駅のホームで電車を待つ間、私は、何度かその女が足を交差させているのを見たことがある。運命は常に過酷だから、その女の視線を感じたとき、向かい側の私のホームにはいつも電車が滑り込んできた。
最初に会ったのは、朝の歩道だった。
生け垣の下半分がブロックになっているところに、三毛猫が朝日を浴びて佇んでいた。その女は、駅に向かう足を止めて引き返した。そして、猫の前に立つと、スカートを膝で折り、猫の前にしゃがみ込んだ。
私は、その女が、三毛猫の頭を撫でているのを眺めながらゆっくりと側を通り過ぎた。
駅に着いた私は、何気なく電車を2回くらいやり過ごした。そして、向かい側のホームに駆け上がってくるその女を、私は待っていた。
その後何度か同じようなことを繰り返した。
その女の電車に乗る時間には多少の幅があった。
そのせいで私がホームで待つ時間も延びるようになった。
ある日、そして快晴の日だった。
同じようにその女は、通りすがりの歩道で、三毛猫を撫でていた。
その時猫は、愛撫する指に飽きたような仕草で、少し立ち上がりかけた。
レザースカートのその女には、機敏な反応は無理と思ったのが、自分の次の決断に対する言い訳になった。
その女の側まで進むと、逃げようとする猫を座らせようと右手を前に出した。勿論、その女と私が猫を挟むような位置取りをすることも忘れていない。
しかし、その猫は大きく背伸びをすると、二人の指をかいくぐって軽やかに歩道に飛び退いた。
二人は、路地に消えた猫を見送りながら、何の言葉も交わすことなく、そしてなにも起きなかったように通勤の人波に紛れ込んでいった。
その日以来、あの女が猫を愛でる姿も、向かいのホームに立つ姿も、見られなくなった。
もう丸い唇をした女の面影も思い出せない。ただあの日、猫をじゃらしながらスルーを通された後悔だけが私には残っている。
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