推理一覧

バッカスメンバーの普段の生活を材料にしたフィクションです。
• 登場人物がバッカスメンバーであるとは、必ずしも明確には述べていないつもりです。

 ２　団らんの悲劇（私小説編）

彼は帰宅すると、ソファーに座り、直ぐに新聞を手にした。
妻は、彼の視線に構うことなく、テーブルから話しかける。

• ねえ、隣の奥さんのこと聞いた

彼は、鼻毛を抜きにかかるが、うまくつかめないでいると、また妻が話しかける。

• 今日、彼女に会ったら、色々話してくれてね

彼は、急いで新聞のテレビ欄を睨むと、直ぐにＷＯＷＯＷにスイッチを入れた。
欧州選手権を見始める。お気に入りは、フランスのパスワークだった。

•  ねえ、隣の奥さん、やはり三角関係だったみたいよ

妻が、テーブルから話しかけるので、音量を大きくしなければならない。
職場から持ち帰ったストレスを夫婦の会話の中で解消しようとする妻と、オランダに旅立っている夫の間で、今日も会話が始まる。
 
（状況）

目の前のテレビでは、フランスがきれいな三角形を作ってパスを回している。

妻　　三角関係って、難しいみたいね
夫　　そりゃそうさ、三角形を作るのは口で言うほど簡単ではないよ
妻　　いつも通勤電車で一緒に相手の人と会っていたらしいの
　　　でも、あんなスペースの無い場所で、良く話ができたわね
夫　　スペースは見つけるものでなく作り出すものだよ
妻　　ふーん。でも、ある日ご主人も一緒に電車に乗ってきて、鉢合わせになったんだって
夫　　スペースが消されたということか
妻　　その時は、流石に彼女も彼氏に話しかけるのはパスしたらしいわ
夫　　そんなときは、パスでなくドリブルが鉄則さ
妻　　なに言ってんの、パスするの当たり前じゃない

デシャンが、囲まれた仲間に近づき、ワンツーで包囲網をほどいた

夫　 （テレビのデシャンに向かい）地味なパスが光るぜ
妻

• そうでしょう、そんな時はパスして別の機会を探すのが普通でしょう
• でも、ご主人も勘がいいのね、彼女の仕草で、三角関係が分かったらしいの
• 今は示談が進んで、三角関係も解消みたいよ

その時、ジダンがマークを外そうと軽くドリブルした

夫　　いや、ジダンは必ず三角形を保つよ

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妻は、三角関係をそのままにした示談の意味を考え続けた。
夫は、サッカー談義の出来る妻を誇らしく思っていた。 
二人の溝の間で、テレビの歓声だけは相変わらず喧しい。