１６　ある日の練習風景

１９９９年１０月３１日〜８日午後３時頃から６時頃:
大豆戸小と、その近くにあるキリン公園

その頃のバッカスは、練習場所を確保することで四苦八苦、やっと小学生の倶楽部の練習の合間に、グラウンドを少しだけ使わせてもらっていた。
世間の目を気にしながら、僅かな時間でもボールを蹴れる瞬間を探して、グラウンド付近を彷徨っていた

＜見学＞　中年は直ぐに焦れる。

飯島は、少年サッカーの引率の後も、大豆戸に居着いていた。そこに、石川　赤羽と駆けつけ、菊地もやってきた。でもグラウンドでは、小学１、２年生のゲームが続いている。
あるゲームでは、ゴール前の密集でキーパーが倒れた。これを気の毒がったディフェンスの一人が思わずボールを手で抱え込んだ。当然のごとくＰＫの笛が吹かれたが、ＰＫは外れ、ディフェンダーは万歳した。これを見た１０番の目も潤んでいる。
我々は、ラグビーのようなサッカー観戦も楽しかったが、どうしてもボールが蹴りたくなり、そしてキリン公園に向かう。

＜公園での練習＞　中年の扱うボールは勝手に動く。

石川の指導で、ロングボールを足を使って柔らかく地面に落とすトラップの練習を、公園に移動して行った。
公園を独占しないように配慮したつもりだったが、勝手にボールが逃げて行くのは仕方がない。ボールにも都合というものがある。そこに、情報がもたらされた。バッカスメンバーの大政達数名が、大綱小に向かったという不穏な動きが飛び込んできた。俺達も行くか、と誰かが叫ぶと、総監督が「団体使用の許可がない」と法律家のような発言をして大綱小での練習はあきらめた。

＜再度の見学＞　中年は直ぐに気が変わる。

キリン公園での練習にも飽きて、再度大豆戸に向かう。
その頃には８名程度に増えていた。みんな、思い切りボールを蹴りたい衝動を胸に隠し、少年サッカーの試合が早く終わることを祈って小学校に向かった。
グラウンドには、山口もいた。午前中の餅つきで体力を消耗していたらしいが、「ゲームをしよう」という誰かのかけ声を聞いて、帰宅時間変更の電話を内儀に架ける。泉谷は、別の会場で審判をした後グラウンドに駆けつけてくる。でも、少年サッカーの試合は続く。待つしかない。
＜グラウンド乱入＞　中年は直ぐに飛び出す。
ある時、試合の合間と思える瞬間があり、グラウンドが空いた。
その時中年１０名はグラウンドに飛び出し、ボールを何度か思い切り蹴ると、また定位置の校庭端に戻った。
せいぜい３分程度の至福の時間であった。思い切りボールを蹴った中年は、多少笑顔を思い出し、また見学のポジションに付いたのだった。

＜苛立ち＞　中年に時間は残り少ない。

再度中年は、じっと少年達を凝視し始めた。嫉妬は隠せない。
なかなかグラウンドを使わせてもらえない中年の苛立ちが目に付きだしたとき、柳が不穏な空気を察してか、校庭の端でミニコーンでドリブルの練習を始めた。そして、タイム測定を行いだすと、これに釣られて、藤田を初めとした中年が競争に熱中する。誰かが１０秒を切り小さな歓声が湧いた。
でもやはり、ドリブル練習はドリブル練習に過ぎなかった。
その時グラウンドの横の道路をレイが通った。自宅用の物件探しと聞いて、下見に赤羽と大久保が同伴した。グラウンドに入れない苛立ちを隠すため、この時の２人は誰にでも付いていった。

＜薄暮＞　中年は鳥目だった。

１５分ほどして帰ると、１０番を始め、何人かは帰っていた。
午後５時近くになり、やっと少年達の試合が終わった頃には、周りの景色は白黒写真だった。やけくそに、「ミニゲームしよう」というと、全員が「当たり前だろう」という素振りを見せた。
５対６のミニゲームは直ぐに開始された。駿の動きは秀逸で、親父を何度も抜いた。
親父達は家に帰ると、子供が活躍した理由を薄暮のせいにするだろう。中年は言い訳が得意だから。

＜警告＞　中年にはもっと練習が必要だ。

この日バッカスの中年は、長時間グラウンドが空くのを指をくわえて待っていた。その嫉妬と焦りから、少年達のゲームの合間にグラウンドに躍り出るという非礼に対し、少年サッカーチームから「まだ、グラウンドに入らないでください」と警告まで受けた。
我々は、もっと人生の練習を積んで、忍耐と寛容を身につけなければならない。