１5　心に沁みる夏合宿

１９９９年８月７日〜８日

参加者

• • 菊地　１０番　監督　ＴＤ　芝田　飯島　武田　泉谷　大久保　庭野　金子
• • 三上　柳　大政　裕太
• • 河内　赤羽　飯塚　駿

欠席者のいいわけ

• • 手島・園部は仕事が片づかない。
• • ベベットは前日風邪を引き
• • レイの膝は完治しなかった。

７日は、私たちは、９時過ぎに車５台でグラウンドに着いた。
初参加の飯島と武田は　小踊りして芝にはしゃぐとき、２度目の河内と３度目の１０番は伸びすぎた芝刈りをして汗を流している。
名人手島が不参加となった今年のライン引きは、よく見ると、その弟子大久保が受け継いだ。
夏の日差しは、海に近いこのグラウンドでは突き刺すように痛い。その真下で練習が始まると、飯島と武田はまたしても走る。流れた汗が乾いた芝に沁みたとき、彼らの頭は真っ白で、だから足は早くも吊りだしていた。

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昼食後
少し昼寝をすると、総監督は２時３０分にグラウンドを見つめていた。既に相手チームは到着して軽く体を慣らしている。総監督は、相手チームが経験者ぞろいであることを見抜くと、何度もトイレに通うのは仕方がない。試合慣れしないキーパーもなかなかの味がある。
そして、試合は終わり、バッカスの勝ち星が一つ加わった。でも、中年の闘志は、その容量を超えていた。

• • 武田は足をつり、庭野は足をつり、
• • 四元は内出血し、芝田まで足をつり、
• • 金子は極度に疲弊し、飯島はただ疲れ、
• • 監督は右足アウトで得点し、河内は真夏の太陽で肌を焼き、
• • 泉谷は胸部の痛みを失念し、ＴＤは腹痛を我慢し、
• • 庶務２は足指が痛く、飯塚は足をひどく負傷し、
• • おまけに大久保は下痢までして、
• • 総監督は宿で下肢を麻痺させていた。

 加藤の思いで

午後の試合では、加藤と監督の２トップ、その真下にＴＤの配置という素晴らしいプランが待っていたはずだった。だから、これを聞いた加藤は、ゴールシーンを想像して寡黙に午前の練習をこなしていた。でも、当日の試合前そして試合中の負傷者の続出は、この３人の競演を許さず、加藤はいつもの守備につくことになった。これに対し、監督はいつものハーフの位置にいた。しかもその足には、一晩かかって紐を通したアシックスの「新品の靴」。

 夕食後の反省会

山口の寄贈した名酒の乾杯で始まった。
ＦＷの夢が夢に終わった加藤の懇願で始まった。
今度ＰＫは俺に蹴らせて欲しい。ヘディングでＰＫを蹴ってみせる。うつ伏せでは顔が血だらけになるので、仰向けで途中に捻りを入れてみせるから、蹴らせて欲しい
この叫びは、ゲストルームに何度も響くと、我々は、もう引き返せないサッカー道の奥深くに足を踏み入れてしまっていることに気付いた。
続けて、監督の方を盗み見しながら、加藤は言う。

• 「監督はいいよな、新品の靴履いて、シュートも出来たし」「俺なんか、新品の靴はないし、相手のゴールは遠すぎて見えないし」

加藤の悔悟の念は、酔いも手伝い、全てがサッカー選手としての本音だった。誰かが、話題を変えた。

• 「ところで、（加藤は）奥さんとはいつ知り合ったのですか」

加藤は言った。知り合ったその日に２人でドライブして、直ぐにこうプロポーズした。

• 「心に沁みる女は、お前だけだぜ」

しかし、芝田のこの時の言葉の本当の意味を我々は知っている。サッカー選手はいつもシャイだから、本音の言葉はいつもこんな風に隠されている。

• 「心に沁みるポジションは、ＦＷだけだぜ」
• 「心に沁みる靴は、新品だけだぜ」

それぞれの思いで

そういえば、こんなこともあった。
成田から７日の夕方駆けつけてきた古村は、８日早朝になって初めてホームのウェアーに着替え、ボールを蹴ると、１５回ボールに触れた。古村のユニフォームは、この為にだけ、遠く中国からを経由して運ばれてきたのだった。
同じ８日の朝、ピッチを駆けだした河内の処へ監督とＴＤがやってきて、河内を取り囲んで何度もキックを教えていた。芝に降りていた朝露が３０インチを超える河内の靴に重く沁みていっても、河内は何度もキックを繰り返した。
７日の試合で最も活躍した大久保には、芝田から密かにプレゼントが贈られていた。白い新品のル・コックのウェアー。大久保はこれを着て、グラウンド横の歩道を歩いた。ウェアーは、夏の夕日の中でも、白く輝いていた。
３度目の夏合宿報告